垂の役割・サイズ・選び方
剣道具の垂、と聞くと垂名札(たれなふだ)と呼ばれるネームのついた防具をイメージすると思いますが、垂には名札をつける以上の役割があります。ここでは垂の部位とその役割について説明します。
防具としての役割
垂は主に腰から太もも前部分を保護する役割があります。つくりは非常にシンプルで、大垂(おおだれ)が3枚、小垂(こだれ)が2枚、腹帯(はらおび)に虫掛け(むしかけ)で取り付けられています。
腹帯は胴が重なり擦れるため、擦れ止め革と呼ばれる補強材がついています。擦れ止め革の材料としては、藍で染めた鹿革や鹿革風の人工皮革、胴着と同じ素材の織刺があります。胴のように個性的なデザインを施すことはあまりありませんが、大垂、小垂と腹帯のつなぎ目にある山道(やまみち)という部分の色や補強材のまつり糸の色、飾り糸の色と本数を特注することが可能です。
また、少しでも軽量化を図りたい人や、見た目をすっきりさせたい人が大垂、小垂のフチなしを選ぶ場合もあります。
垂名札(ネーム)をつける役割
垂には、所属チームと自分の名前を示す名札の役割があります。
名札は袴と同じ紺反という下地に、クラリーノという合成皮革を切り抜いた物を縫い付けて作られます。クラリーノの他にも、刺繍やフェルトを取り付けた名札もあります。
また、剣道具店によってさまざまな書体を選ぶことができ、手書きの文字から型を起こしてくれるメーカーもあります。気になる場合は一度お店で相談してみましょう。
垂のサイズの選び方
垂のサイズは、S、M、Lなどと表記されていますが、同じSサイズでもメーカーによって大きさが違います。
垂のサイズを選ぶ基準としては、大垂が腰骨よりも少し後ろにくるくらいを選んでください。腕をまっすぐ下に下ろしたとき、腕より少し後ろにくるくらいです。
良い垂の選び方
寺子屋ばんとうが考える良い垂の条件は2つあります。
(1)芯材のしっかり入ったもの
防護性が高く、型がつきやすく、美しく着装できます。
(2)帯が柔らかく、締めやすいもの
骨盤が前傾したまま安定し、下腹に力が入りやすくなるため、大きい発声や力強い打突ができるようになります。
防具屋さんで垂を選ぶ際はこれらの点を踏まえて相談してみてください。
垂の付け方
垂の付け方は簡単3ステップです。
- 大垂、小垂が体の前に来るようにし、腹帯が骨盤よりやや上に来るように位置を調節する
- ずれないように押さえながら垂紐を体の後ろにぐるっとまわして前に持ってくる
- 3枚ある大垂の真ん中の裏側に垂紐を持ってきて、付け根のところで蝶結びをする
剣道の動きをサポートする付け方
剣道の動きを最大限に引き出す垂の付け方を紹介します。大事なことは以下の2つをおさえることです。
- 骨盤が前傾している状態で垂紐を締めること
- 下腹に程よく力が入った状態で垂紐を締めること
垂の付け方にちょっとした工夫をするだけで、剣道の動きに良い影響を与えることができます。合唱や吹奏楽で、腹筋を鍛えたり腹式呼吸の訓練をし、声量や音量を安定させることがあります。剣道でも下腹に力を込めてしっかりとした発声をすることが重要なのです。
その下腹の力を出す役割を、垂は担っているのです。
下腹の力を出す工夫は、着装時でもできます。次の動画も参考にしてみてください。
美しい着装のための型付け
垂の着装で重要なことは、下腹に力が入ること、美しく着装をすることです。ここでいう美しさとは、シンメトリー(左右対称)であることです。
着装した状態で正面から立ち姿を見たとき、まるで富士山の裾野のように大垂が外側に向かって広がっていくような型が理想的といえます。
型をつけるには、左右の大垂の根本を前方に折り、先端にかけて緩やかな曲線を描くように手で型を付けてみましょう。その時、垂が丸まらないよう注意してください。
垂の手入れ
垂の手入れの目的は、以下の2つです。
- 腹帯をよく揉んで柔らかくし、締めやすくすること
- 腹帯の裏側、垂紐の汗を拭き取り、劣化を抑えること
基本的には、手ぬぐいやタオルで優しく汗を吸い取るように拭きましょう。垂紐も、くしゃくしゃにならないよう、画像のように手で伸ばしてあげてください。
垂の修理
垂を使い込んでいくと、少なからず劣化する部分が出てきます。ここでは特に劣化しやすい部分と、それぞれの部分を修理した方が良いのか、買い換えた方が良いのかについて説明します。
特に劣化しやすい部分とそれぞれの修理については以下の通りです。
- 垂紐:部分的に交換可能
- 腹帯の擦れ止め:劣化した部分の上から補強材を取り付けることが可能
- 大垂、小垂のフチ革:交換可能
- 飾り糸:交換可能
基本的にどの部位も修理をお願いできますが、各パーツが破れてしまったり、芯材がむき出しになっている場合は買い換えたほうが良いといえます。修理代もお店によって異なるので、修理の必要性も含め、迷ったら相談に行きましょう。
垂の洗濯
垂も含めた防具についての疑問で最も多いのが、「洗っても良いのか?」です。答えはイエスですが、基本的に手洗いとなります。また、脱水が面倒なこと、芯材へのダメージや色落ちなどのリスクを踏まえると、垂を洗濯するのはおすすめできません。
しかし、昨今ではジャージ素材の防具が開発され、洗濯機で洗っても芯材が型崩れせず、色落ちもありません。稽古量が多く汗による防具へのダメージが心配な方にはジャージ素材がおすすめといえます。
まとめ
いかがでしたか?垂は剣道の要となる腰部分を保護するだけでなく、腰に力を込めやすくする役割もあります。ここで得た知識をもとに使いやすさ、美しさにおいて最高の垂を選んでください。